なぜ足首の捻挫は癖になるのか
蹴躓いたり、段差を踏み外したりしたときにグキッといく足首の捻挫。
「足首の捻挫なんて放っておいたら治るわー」と、市販のシップ貼って日にち薬で治す人や、
スポーツ選手ならアイシングしてテーピングしてそのまま練習を続ける人がほとんどじゃないでしょうか?
たしかに捻挫は日にち薬で痛みが退くので、治ったと思ってそのままにする事が多いんですが、実は痛みがなくなってもきちんと治ってないことも多いんです。
何もないところで蹴躓いたり、つま先が引っかかったり、なんだか足首がグラグラしてるような気がしたり・・・
それでまた捻挫をしてしまう。
癖になってるんですね。
「足首の捻挫は癖になる」のはなぜなのか?
関節をメインにカラダを考えるいち柔道整復師の視点から解説していきましょう!
このページの目次
捻挫すると足首はどうなる?
整形外科学では捻挫は骨折や脱臼までいかない関節のケガで、
外力が関節に加わったときに周りの靭帯や筋肉・腱が伸ばされたり切れたりして内出血・腫れ・痛みを出す、とされています。
骨そのものに異常はなく、関節が外れてるわけでないので、レントゲンで写らない足のケガになります。
この説明はかなり一般向けに端折ったもので、もっと詳細な研究では、
捻挫は足関節の安定性と可動性の低下(関節アライメント異常/マルアライメントともいう)が発生すると認められています。
関西理学「スポーツ動作と安定性-外傷発生に関係するスポーツ動作の特徴から」より
「関節アライメント」て難しい言葉ですが、要は関節の噛み合わせが悪くなってることで、もっと簡単に言えば”関節のズレ””関節の歪み”のことです。
まとめると、捻挫をしたら足首は
- 靭帯や筋肉・腱が損傷する
- 内出血・腫れ・痛みを出す
- 関節がズレて安定性と可動性が低下
という状態になるということです。
捻挫の腫れや痛みはそのうち治るが・・・
足首の捻挫で治療にかかる人はどれくらいでしょう?
足を着けないくらい痛くてもの凄く紫色に内出血してるならともかく、ほとんどの人は自己流でケアしてたら治った!て感じじゃないでしょうか。
それにヤバいと思って整形外科に行っても、
「レントゲンは異常なし、シップ貼って安静にしときなさい」
と言われてそのまま、となるのがほとんどです。
実際、内出血・腫れ・痛みは自己治癒力で治っていきます。
でも、関節のズレだけは自己治癒力では治りません。
正確に言えば、捻挫してもズレが発生しないときや、ズレても何かのタイミングで自然にズレが戻ることもあります。
たまにありませんか?
なんだか足首が引っ掛かってるような、納まりが悪いように感じて足首をブンブン振ったら「ぺキッ」とか鳴って気にならなくなったとかいう経験。
程度の差はあれ、この現象も足首のズレが原因です。
ですが捻挫の場合そういうラッキーはあんまりありません。
足首のズレが捻挫癖の原因になる理由
先に理由を言ってしまいましょう。
- 足首を反らしにくくなり爪先が引っ掛かりやすくなる
- 足首がグラついてるので着地のとき地面の変化に対応できない
可動性と安定性の低下が引き起こす現象です。
詳しく解説しましょう!
足首の構造と捻挫のメカニズム
ちょっと予備知識が要るので、
先に足首の関節の構造と捻挫のメカニズムを解説させてください。
足首は膝から足首までの「下腿部」と、足首から爪先までの「足部」に分けられます。
その下腿部と足部を繋ぐ要の骨を「距骨」といって、距骨は足首の安定性と可動性に重要な役割を持ちます。
足首を捻挫すると、この距骨がズレます。
グキッといった瞬間、距骨は梃子の作用で前外方向に押し出されるからです。
これは足首捻挫で一番多い「内反捻挫」という受傷形態です。
他の受傷形態で他の足の骨がズレることもありますが、だいたいどの形態でも距骨がズレます。
それだけ足首関節の中で距骨は重要ということです!
爪先が引っ掛かって捻挫
距骨が前外方にズレたら、足首を反らす(爪先を上げる)と周りの骨に当たるので反らしにくくなります。
可動性が下がるんですね。
これは歩く動作にとても悪い影響を及ぼします。
歩行運動中、後ろに送った脚を前に振り出すとき、爪先が地面に当たらないクリアランスを確保するために、足首を反らします。
足首のズレがあると、足首をちゃんと反らせないので、つま先が引っ掛かって蹴躓き、捻挫をしやすくなってしまうというわけです。
着地に失敗して捻挫
歩行運動中は、足首周りのたくさんの筋肉はそれぞれのタイミングで力をだしたり抜いたりしています。
地面を爪先で蹴って脚を後ろに送って、前に振り出す瞬間、
全部の筋肉はいったん力を抜いて関節はブラブラになります。
そして脚を前に出して踵が着地して、全体重が掛かるとき、全部の筋肉の力が入って足首関節を安定させます。
ですが、関節がズレて安定性の低下した足首はグラグラなので、
着地の瞬間に筋肉がうまく作用せず、グラついたまま着地することになります。
着地した地面に段差や傾斜があると、足首にイレギュラーな角度がついて、筋肉は咄嗟の反応ができずグキッとやってしまうというわけです。
足首の捻挫癖の予防と治療 それぞれの長所と欠点
足首にするものといえばテーピングとサポーターがおなじみですね。
捻挫癖の予防治療は、捻挫受傷後の腫れや痛みが治まってから行います。
- テーピング・サポーター
自分でできる手軽さがウリ。正確に巻けば安定性がその場で向上する。
欠点は、安定性は向上するが可動性は逆に低下することと、これをしているからといって治るわけではないということ。 - 筋トレ
足関節周りの筋肉を鍛えることで安定性を向上させるのが目的。
ゴムバンドでも紐でも負荷をかけられる物があればいつでもどこでもできる。
欠点は時間がかかり効果がわかりにくいこと。 - バランストレーニング
足関節に備わる荷重を感知する神経を刺激して安定性を向上させるのが目的。
欠点は膝や股関節、または体幹など足首以外に問題があると効果が低くなること。 - 可動域回復訓練
傾斜をつけた器具などに乗って、足首を反らせるように角度をつけて可動性を向上させるのが目的。
欠点はアキレス腱や下腿筋のストレッチで終わってしまうことや、時間がかかり効果がわかりにくいこと。 - 関節整復
術者の徒手によりズレた関節を元に戻し可動性と安定性を向上させるのが目的。
術者の技量に依るため効果の差が激しいことが長所であり欠点。
このうち、1~4はスポーツのケガや故障に詳しい整形外科や整骨院、スポーツトレーナーのところで指導や治療を受けることが出来ます。
5については整骨院(柔道整復師)の領分ですが、できるところとできないところがあるのが現状です。
まとめ
- 足首を捻挫すると痛みは退いてもズレが残ることが多い
- 足首のズレは関節の可動性と安定性を低下させる
- 可動性の低下が爪先を上げにくくするので蹴躓きやすくなる
- 安定性の低下が地面に足をついたときのグラつきを生み挫きやすくなる
おわかりいただけましたか?
捻挫の受傷形態、ズレる骨、筋弱化、テーピングの巻き方、などなど足首捻挫はバリエーションがありすぎて全部語るにはキリがありません。
なるべく専門用語を避け、解りやすいように書いたので、かなり省略してあります。
参照元のデータや論文は、整形外科と理学療法の分野のものですが、
私は関節をメインにカラダの機能を考えるので、関節機能に着眼して足首の捻挫癖について解説しました。
足首捻挫の後遺症ともいえる関節安定性低下は、ランナー膝や鼠径部痛(グロインペイン症候群)など下肢のスポーツ障害の原因になります。
テーピングやサポーターで凌いだり、痛みが退いたから治ったと思わず、信頼のおけるところで早めに治療を受けましょう!