ハムストリングス肉離れの痛みが治療をうけても治らない理由

肉離れは、誰でも経験したことがあるスポーツ傷害の代表的なケガです。
ぶっちゃけ放置してても日にち薬で治ることが多いけれど、治療に掛かってもなかなか治らないケースもあります。
あなたもそうかもしれませんね。
当院には、「整形外科や整骨院に通ってるけど治らないからなんとかしてほしい」ということで、紹介やネットを見て来院される方がたくさんいます。
なので、ケガしたての肉離れになりたてホカホカの方より、一週間以上経って来院される方のほうが圧倒的多数です。
半年以上ずっと痛いという方、県外から来院される方もおられるので、こじらしたものを効果的に治せるところが少ないということかもしれませんね。
そういう方たちが受けてきた、治らなかった治療や施術には共通点があります。
それは何か。
なぜ治らないのか。
何が原因なのか。
そのあたりを解説していきましょう!
このページの目次
肉離れとは

筋肉の繊維が、自分の筋肉の力(自家筋力)や、外力によって微細に裂けたり切れたりして受傷します。
受傷直後は炎症(腫脹・熱感・発赤・内出血)があって、動かさなくてもズキズキ痛んだり(自発痛)、体重を掛けると痛んだり(荷重痛)します。
ふつうは放っておいても3~14日もすれば完治に至るとされています。
生理学的に炎症反応は、48時間~72時間で消退するとされているからです。
ハムストリング肉離れの受傷メカニズム

まず、ハムストリングがどのようにして肉離れを起こすのか、そのメカニズムを解説していきましょう。
肉離れは、筋肉が力を出そうと縮もうとしている最中に、逆に引っぱる力が加わると受傷します。
“走行”を例に解説していきましょう。
ハムストリングが縮んで力を出すのは、脚を後ろに送るときと、膝を曲げて踵をお尻に近づけているときです。

なので肉離れになるときは、“ダッシュで後ろ脚で地面を蹴って身体を前に進めているとき”に、ハムストリングを引っ張る力が加わると肉離れになります。
では、ハムストリングを引っ張るのは誰だ?てのは、それは主に太腿前の大腿四頭筋です。
大腿四頭筋は、脚を前に振り出すときと、膝を伸ばすときに縮んで力を出します。

ハムストリングのカウンターパワー(拮抗筋)になっているんですね。
ハムストリングが縮んで力を出しているときは、大腿四頭筋は邪魔をしないように力を抜いて伸ばされる。
大腿四頭筋が縮んで力を出すときは、ハムストリングは力を抜いて伸ばされる。
タイミングよくハムストリングと大腿四頭筋を縮めたり力を抜いたりして、走るという動作がスムーズにできるんです。
このタイミングがズレて、大腿四頭筋が力を抜かなければならないのに入ってしまうと、関節を介してハムストリングに対抗牽引力が加わります。それで肉離れになるんですね。

ちなみに大腿四頭筋が縮んで力を出しているときにハムストリングの力が入ってしまうと、太腿前の肉離れになります。
では次に、メカニズムはわかったとして、なぜタイミングが狂うのか?そのあたりを解説していきましょう。
なぜタイミングがズレるのか?
それには神経伝達系要因と、メカニカル内的要因の二系統あります。それには外的要因と、内的要因の二系統あります。
と、言われてもなんのこっちゃと思うので、例を上げましょう。
- 外的要因:路面で滑る・段差や石を踏む・並走者と接触など
- 内的要因:疲労・フォームの乱れ・筋力バランスの不均衡など
こうやって書くと両者は別個のように思うかもしれませんが、そうではありません。
外的要因で起こることは全て「体勢が崩れる」ことの発端です。体勢が崩れると重心バランスを元に戻すために全身の筋肉と関節と神経を瞬時にフル稼働します。そのときにミスるとハム四頭筋のタイミングがズレます。
肉離れの治療・施術

肉離れの治療や施術には、二系統あります。
- 痛みの除去を目的とするもの
- 原因の解消を目的とするもの
それぞれについて解説していきましょう。
痛みの除去を目的とした治療・施術
肉離れは筋繊維の損傷、つまり切り傷や刺し傷と変わらないので、放っておいても日にち薬で治っていくことのほうが多いです。受傷直後の痛みは炎症反応によるもので、生理学的に炎症は安静にしていたら72時間、つまり3日で治まるからです。
といっても全く筋肉を使わず生活するとか無理なので、じっさいは長くて2週間くらいで治るとされています。その期間の痛みを和らげるために、炎症反応を抑える効果がある湿布やアイシングで治療します。
問題は、炎症が治まってるのにまだ痛む場合があることですね。
なんで痛むのかというと、損傷した筋繊維が硬くなって、元のように上手く伸び縮みできなくなっているからです。
周りの健康な筋繊維の伸縮率と、損傷した筋繊維の伸縮率が異なるので、筋肉全体を動かしたときにその差を神経が感知して痛みを感じます。
硬くなった筋繊維を元のように柔らかく戻せばこの痛みはなくなるので、マッサージやストレッチ、筋膜リリース、電気治療、鍼灸などで治療します。
肉離れの原因に対する治療・施術
肉離れの原因は、オーバーユース(使いすぎ)とされています。
で、練習のし過ぎで身体がこんなことなってますよ!だから肉離れになるんですよ!てのと、その処方は以下のとおり。
- 筋疲労の蓄積
←休養(練習の休止)、安静、睡眠、栄養補給など - 筋力のアンバランス
←筋トレ、フォーム改善、テーピング、サポーターなど - ウォーミングアップ不足
←ストレッチ、ウォーミングアップ指導など - 筋肉の柔軟性低下
←マッサージ、ストレッチ、筋膜リリース、施術療法など
治らない肉離れ治療・施術の流れ
肉離れで整形外科に行くと、「しばらく練習休んでシップ貼って様子みといてください」と言われますよね?あれは”原因に対する治療・筋疲労の蓄積”と、”痛み除去の治療・損傷筋の炎症”に対する処方なワケです。
で、しばらく休んでるうちに炎症が治まれば完治です。
炎症が治まっても痛みが続いている場合は、硬い筋繊維が残っているということなので、リハビリで筋トレやフォーム改善、マッサージやストレッチなどで施術します。これは多くの整骨院でもそうです。
それで軟らかく戻れば完治に至ります。
となればいいけれど、痛みが退かない・治ったと思って練習再開したらまた傷みだす、てなるケースがあるのが厄介なところですね。
それはなんでか?
硬くなった筋繊維が軟らかく戻ってないから。
なんで軟らかくならないのか?
次にその理由を解説していきましょう!
硬くなった筋繊維の柔軟性が戻らない理由

理由は二つ。
- 硬くなった筋繊維に施術の刺激を伝えづらい
ハムストリングは肉厚なので、深いところにある筋繊維にマッサージの刺激が与えづらい。ストレッチは関節可動域の限界があるので伸ばしきれない。 - 関節の働きを考慮していない
筋肉と関節は連動し互いに影響を与え合っています。筋肉に不具合があると関節にも不具合が生じていることが多いです。
硬くなった筋繊維を柔らかく戻すのが難しい理由
肉離れになったハムストリングを探ると、硬くなった筋繊維の塊・筋硬結と呼ばれるコリコリのシコリができています。硬結は種類があり、形によって痛みの感じ方が違います。
硬結の形と痛み方を、私の経験から、4パターンに分けてみました。

1.ボール状の硬結
筋腹に形成され、表面からボコっとした感触がわかります。
ハムストリングにストレッチをかけたり力をいれたりすると、この部分に限定的な痛みを感じます。
2.ライン状の硬結
筋腹から膝裏にかけて、もしくは筋腹から座骨付着部までに形成されます。
引き攣れるような、引っ張るような痛みを感じます。殆どの場合、複数のライン状の硬結が隣接しています。
3.ハムストリング付着部炎(座骨結節炎)
ハムストリングが付着する坐骨結節に、微細な肉離れが折り重なり小さな硬結の集合体が形成されます。
運動時の明確な痛みを訴えるケースもあれば、痛みまでいかない曖昧な違和感を訴える選手も多いです。
椅子に座っているとだんだん痛くなることもあります。
4.筋間中隔筋膜癒着
ハムストリングを包む筋膜と、他の筋の筋膜が、太腿内部でくっつきあうものです。硬結ではないんですが、肉離れ後遺症に多くみられるパターンです。
ストレッチや股関節を内外に捻じるとき、くっついたところが剥がれようと引っ張り合って、太もも深部に引き攣れたような痛みを感じます。
1から4を複合して損傷している選手も多いです。
2のライン状に1のボール状があることが多く、3が起点となって2が繋がっていることも多いです。
1と3、3と4の組み合わせは少ないように思います。このパターンはMRIやエコーである程度判読できます。特にハムストリング付着部炎(座骨結節得炎)は、レントゲンで薄っすら白く映ることもあります。
硬結はハムストリングの中にあって、その上に軟らかい脂肪層、硬い真皮と表皮が覆っています。肉の奥にあるので、皮膚の上からのマッサージでは影響を与えられない場合があるんですね。それなりに強度のある指圧で以て硬結を探し出し、捉えて解す技術が必要になります。
しかし、効果的な施術で硬結を解して軟らかくできても、それだけじゃ不十分なことがあります。また元のように硬くなってしまう。
その問題を解決するのは、関節機能が重要なカギになります。
関節機能障害と筋肉
ここで言う”関節機能障害”は、よく言う「身体が硬い」=関節可動域が狭い、ということではありません。関節が正常な軌道で動かなくなっている、という意味です。
柔道整復では亜脱臼、理学療法では関節アライメント不良と呼ばれる状態です。俗にいう”関節のズレ”とか”歪み”のことです。
関節は筋肉で動かされると同時に、筋肉の力の方向を導きます。なので関節がズレて歪んでると、筋肉の力の方向が乱れるので、筋力が低下しますし、関節の安定性も低下します。
例えば足関節がズレると安定性が低下するので、片足立ちになったときにバランスを取りづらくなります。

ぐらつきを抑えてバランスをろうとすると、脹脛や太腿やお尻の筋肉をめちゃくちゃ使います。余分な力を無意識に出し続けることになってしまっているんですね。
なので何か突発的なアクシデントでバランスをくずしたとき、余分な力をだしている筋肉にタイムラグが発生します。
そのとき筋肉のバランスが崩れて受傷してしまうんですね。
ハムストリング肉離れのストレッチやテーピング・サポーターは有効か?

ストレッチのメリットとデメリット
<メリット>
筋肉にストレッチをかけると軟らかくなることは科学的に証明されています。
全体に軟らかくなれば、硬い筋繊維と健康な筋繊維の収縮率の差が縮まるので、痛みは緩和されます。
<デメリット>
ストレッチをかけたとき、健常な筋繊維はよく伸びますが、硬い筋繊維はいうほど伸びません。
逆にストレッチのやりすぎは、硬結部分と健常部分の境界や、筋繊維の付着部に牽引力や旋断力が働くので、筋繊維は微細に損傷します。
ストレッチを痛いのを我慢して繰り返す人ほど重症化しているのはこのためなので、今すぐ止めましょう。
ストレッチは「伸びて気持ちエエわぁ」てくらいで十分です。
テーピング・サポーターのメリットとデメリット
<メリット>
サポーターやテーピングの圧迫力が、健常部分の伸縮率と硬結部分の伸縮率を均すので、痛みは緩和されます。
<デメリット>
圧迫による循環障害によりハムストリングの血流が低下し、エネルギー供給不足と老廃物除去機能が低下します。血液の供給不足は損傷部の回復の妨げになります。
また、筋間中隔に損傷がある場合、圧迫すると中隔の筋膜が圧着されて、癒着が広がり悪化します。
なので常用はやめといたほうが良いでしょう。
ハムストリング肉離れのまとめ
- ハムストリング肉離れは日にち薬で治るものと治療に掛かっても治りにくいものがある
- 治りにくいのはハムストリングの中の一部の筋繊維が柔軟性を失い硬結になるから
- 硬結は皮膚・脂肪層・筋層の奥にあるのでマッサージやストレッチで効果が出にくい
- 関節のズレがあると筋肉に余分な負荷をかけて柔軟性を低下させる
- ストレッチは痛いのを我慢してやると悪化するので止めよう
いかがでしたか?今回はハムストリング肉離れについて解説しました。
もしあなたが、今もハムストリング肉離れの後遺症に悩み、満足なパフォーマンスを発揮できないでいるのなら、きちんと硬結を取り除いて関節を治してくれる術者を探してみてください。
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ただし、施術は痛いので、「何としてでも絶対治したい」という人むけの施術です。
試合に出たい、練習に復帰したい、勝つ、記録を伸ばす、そういう強い意志と高い目標を持つ方にしか施術できません。
それでも敢えて施術を望みご来院いただけるなら、私は痛みに耐えてケガを克服しようとするあなたに敬意を払い、全力で施術に当たらせていただきます。
そんなあなたをお待ちしております。




