野球肩(投球痛)の原因 | 筋肉と関節の連動不足がフォームを乱す
野球などの球技でボールを投げるときや、バレーボールのスパイクやテニスのサーブのようなオーバーヘッドスローイングで肩が痛むスポーツ傷害です。
投球痛とか、リトルリーガーショルダーとも呼ばれます。
今回は、野球肩の原因と言われる
使いすぎ=投げすぎ
投球フォームの乱れ
について解説していきましょう!!
このページの目次
野球肩の原因は使いすぎ?フォームの乱れ?
よく言われる野球肩の主な原因
- 使いすぎ=いわゆるオーバーユース
- 投球フォームの乱れ
1の要因は2にあります。
つまり、2がなければ1は発生しません。
「使いすぎ」って、練習のしすぎとか投げすぎということじゃないんですよ。
使いすぎ(オーバーユース)とは
「使いすぎ」ていうのは、
“練習のしすぎ”という意味ではなく、”筋肉の一部分だけ無意識に力が入ってしまうという意味なんです。
なんでそうなってしまうのか?
原因は筋肉と関節の連動が上手くいってないからです。
筋肉の伸び縮みで関節は動き、関節は筋肉の力の方向を導く。
うまいこと協調して効率よく身体を動かします。
肩の場合は、この協調のことを
肩甲上腕リズム
と呼びます。
肩甲上腕リズムとは
腕を回したり上に挙げたりするときは、腕の骨(上腕骨)と一緒に肩甲骨もセットで動くようになっています。
身体の横にブランと下げた腕を横に大きく回し挙げていくときは、初めは上腕骨しか動いてませんが、だんだん肩甲骨も一緒に動くようになります。
肩甲骨は背中で回りながらスライドしつつ、120度くらいで肩甲骨の端の出っ張りと上腕骨は平行になるようになってます。
実際に動画でみてみましょう。
この選手は右肩が野球肩です。
右と左の腕は同じ高さで移動しているのに、肩甲骨の動きが少し違うのが解ると思います。
特に一旦頭上に挙げてから下ろす0:11分ごろに、右の肩甲骨の動きがおかしくなってるのがわかりますか?
それまでスムーズに動いてたのが、カクッとなってますね。
この瞬間、周りの筋肉に無意識に力が入ってしまいます。
肩甲上腕リズムが破綻する要因
- 筋肉(回旋腱板筋・ローテーターカフ)の機能不全
- 肩関節亜脱臼(いわゆるズレ)
関節と筋肉の協調が崩れているということなので、そのどちらかが悪いのが要因です!
ていうのは解りきってると思いますが、詳しく解説しましょう。
ローテーターカフ
肩のインナーマッスルとも呼ばれる回旋腱板筋ローテーターカフは、肩甲骨から上腕骨にかけて付着する棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の四つの筋肉の総称です。
腕を捻る運動に働くほか、上腕骨を前後上下四方向から上腕骨を引っ張ることで、肩関を安定させる機能をもちます。
このどれかの筋肉の力が弱くなっていたら、四方向の協調が乱れて関節の安定性が低下します。
投球痛のリハビリでよくやる肩のインナーマッスルの強化は、肩甲上腕リズムを正しくすることを目的にしています。
四つの筋肉のどれに対してどうアプローチするか?
リハビリ期間はトレーナーの判断次第になりますね。
肩関節亜脱臼
亜脱臼は簡単に言うと関節の歪みとかズレとか呼ばれる機能不全のことです。
理学療法では関節アライメント不良またはマルアライメントと呼ばれます。
左右の腕を真っ直ぐ真横に伸ばして静止してもらっています。
右肩のほうが左より前に出ているのがわかるでしょうか?
これは上腕骨が肩甲骨に対しやや前下方向に亜脱臼しているために起こります。
亜脱臼している関節は安定性に欠け、筋肉の力の方向を歪めてしまいます。
なおかつ回旋腱板筋の協調を阻害するので、肩甲上腕リズムの破綻の要因になります。
亜脱臼を治すには柔道整復師の関節整復か、カイロプラクターのアジャストメントが有効です。
術者の技術によりますが、一瞬で治してくれることもありますよ。
<インピンジメント症候群>
肩甲上腕リズムの破綻の仕方によっては、肩甲骨の端と上腕骨の隙間が狭くなるケースがあります。
このとき隙間にある筋肉や関節包などを挟みこんで損傷させてしまうのをインピンジメント症候群といいます。
成長期の子供にインピンジメントがあると骨端の成長軟骨を損傷することもあります(リトルリーガーショルダー)。
インピンジメントはレントゲン検査で骨に異常が見られれば確定診断されます。
ですが殆どの場合はレントゲンで異常は見られないので、肩周囲の外見と主訴、肩甲上腕リズムの観察で判断されます。
肩以外のフォームを乱す要因
言うまでも無くピッチングもスパイクもスマッシュも全身運動です。
肩と腕だけ回しているわけではありませんよね。
足の指先から手の指先まで繋がる筋肉を爆発的に収縮させ、各関節を高速で可動させます。
フォームというのは筋肉と関節の連動=運動プログラムです。
日々の練習は運動プログラムを組み上げる作業と言っていいでしょう。
人間は何か新しい動作を覚える時、試行錯誤しながらプログラムを作り上げていきます。
例えば、「歩く」という動作を考えなしにできるのも、赤ちゃんのころに数年かけて構築した歩行プログラムが出来あがっているからです。
「ボールを投げる」という意思決定のあとは、プログラムに沿って体が動きます。
でも、筋肉や関節に異常があると、プログラム通りに体が動かなくなります。
それが「フォームの乱れ」です。
要はプログラム通りの投球フォームで投げているつもりが、実際は異なっている。そのギャップが組織の損傷を生み出す。
これは逆に言えば、
フォームが乱れるから傷めるのではなく、どこかが傷んでいるからフォームが乱れる
ということです。
めちゃくちゃ簡単な例をだすと、右足首を捻挫したとします。
右足を衝いたら痛いから、歩くときは左足に体重がかかる割合を増やして身体を左側に倒します。
左側の脚や腰が疲れてきて、そのまま無理して歩くと左膝か腰が痛くなってきますね。
野球肩で直接傷むのは肩で、それは肩甲上腕リズムの破綻が生み出しますが、投球は先ほど言ったように全身運動です。
土台となる下半身の問題が、肩に影響している可能性もあるのです。
下肢関節とフォームの乱れ
投球に下半身の安定が大事というのはよく言われることです。
発射台がグラついてたら、ボールがどこに飛んでいくかわかりませんからね。
ここでは身体のどの部分の障害がどの投球フェーズに影響するか簡単に説明しましょう。
肩の異常がフォームに大きく影響するのは、腕のモーションが大きいレイトコッキングからアクセラローション期です。
軸足に異常があると、ワインドアップからアーリーコッキング時に片脚でバランスがとり辛くなります。
無意識にタメる時間が短くなるので、足がインに流れるなどフォームが乱れる可能性があります。
踏み込み足に異常があるとレイとコッキング期からアクセラレーション期の踏み込み脚が不安定になり、膝が割れるなどフォームが乱れる可能性があります。
まとめ
- 投球痛はフォームの乱れが筋肉を損傷し発症する
- フォームの乱れは筋肉と関節の連動が崩れることで筋肉に無意識に力が入ることが原因
- 筋肉と関節の連動は筋肉の損傷や疲労、関節のズレが原因で崩れる
- 肩だけでなく下半身の異常も運動連鎖によってフォームを乱して投球痛の要因になる